香水業界への絶望と反抗から生まれたフレグランス『ETAT LIBRE D’ ORANGE(エタ リーブル ド オランジェ)』

邪魔をし、触れ、誘惑し、スリルを与えるように設計された香りのジュース。「香りの常識を逸脱し、禁止されたものを乗り越える。規則を破るため、反抗するため、ただ存在するために作られた香水」と謳う、自由を求めた先に行き着いた革命のフレグランスとは。

2019年05月21日更新

香水/フレグランス

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[1]『ETAT LIBRE D’ ORANGE(エタ リーブル ド オランジェ)』ってどんなブランド?


出典 noseshop.jp/?tid=5&mode=f15

LVMHグループの『パルファム ジバンシィ』で仕事を覚え、長年ラグジュアリー香水に携わっていた調香師エチエンヌ・ドゥ・スワールによって、2006年に立ち上げられたフランスのパフュームメゾン。日本には2018年5月に初上陸しました。

彼は大衆向けの独創性のない香りの表現に、美の業界の腐敗を感じて絶望を覚え、香水業界の大きな力と戦うため独立宣言として自身の香水ブランドを立ち上げました。

それが『ETAT LIBRE D’ ORANGE(エタ リーブル ド オランジェ)』、日本語に訳すと「オレンジ自由国」です。

このネーミングだけでも興味がかき立てられますが、「オレンジ自由国」は1854年にボーア人によって南部アフリカに建国された実在の国家共和国の名前で、南部国境の”オレンジ川”にちなんで名付けられたようです。

しかし、近隣にダイヤモンド鉱山が見つかったことで白人が流れ込み、争いが勃発。激戦の末敗れ1902年にはイギリスの植民地に…。

いつの世も“金の生る木”には人が群がり、争いが生まれるものですね。とても愚かなことだと思いますが、それが世の常なんでしょうか。


出典 noseshop.jp/?tid=5&mode=f15
調香師:エチエンヌ・ドゥ・スワー氏

南アフリカ出身である調香師のエチエンヌは、自由を求め闘ったこの国に共鳴せずにはいられなかったのでしょう。

ブランドを立ち上げるにあたり、オレンジ自由国をめぐる人々と文化の融合や衝突、破壊、美、そして自由をテーマにし、自身の理想を重ね、香水を通してそれらを表現するに至りました。

パンキッシュな反面とてもエレガントなこのブランドは、彼の反骨精神がオレンジ自由国のそれとぴったりハマったからこそ生まれた賜物です。

日本ではまだまだ馴染みが薄く、私も「NOSE SHOP(ノーズ ショップ)」を訪れるまで知りませんでしたが、今や香水業界の中でもとても尊敬される存在となり“革新的で大胆な香水”としてフランスのフレグランス財団からスペシャリスト賞も授与されています。

また調香においては創造性、原材料、経費において一切の制限と妥協をせず、香りの表現にのみ才能と情熱を集中させるため、ボトルは極めてシンプル。とはいえとても洗練されたオシャレなボトルですが、そういったこだわりも、ますます興味を惹かれるところですよね。

[2]比喩や皮肉を駆使して作り出されるユニークな香水名


出典 fashionmarketingjournal.com

このブランドの香水はネーミングがとてもユニークですが、奇をてらった感はあまりなくちゃんと意味があるものだと伝わりますし、その香りを確かめずにはいられなくなるようなセンスがあります。
実際私も店舗に行った時、全種類試さずにはいられませんでした。

どれもこれも本当に奥深い。“奥行き”と言った方が近いかもしれません。

嗅いだ瞬間、あ〜良い香り!と率直に感じるものももちろんありますが、しばらく嗅がないと脳までその香りが認識しないものも多く、じわじわ時間をかけて膨らんでくる複雑な香りの掛け算は、一瞬「何だこの香り?」と戸惑ったとしても、何度も何度も嗅ぎ直してその先の香りの正体を確かめずにはいられないんです。

そんな一筋縄ではいかない香りはネーミングにも比例していて、それぞれに付けられた名前はとてもユニーク。
国内では現在、以下の17種類がNOSE SHOPで購入できます。
(日本語名のみ表記)

・らしさからの解放
・過ぎ去りし美の呪い
・イノセンスの終わり
・あぁ、いい香り
・危険なストレンジャー
・オレンジの背教者
・もう1人の自分
・賢者をも狂わす魅力
・ファム・ファタルの儀式
・非凡な人々
・真の官能
・恋の余韻
・甘い謎
・あなたのような誰か
・こんなふうに
・ゴミの花
・純度100%の悪

…どうですか?
どんな香りかとても気になりませんか?

しかも、今自分が置かれている状況とネーミングがリンクするものも多いですよね。

例えば、周りから勝手に人物像を作られ、“◯◯さんらしい”、“◯◯さんらしくない”などと誤解されがちな方は、実際の自分と他人が描く人物像に違和感を覚えているかもしれません。

もし私がそんな状況に置かれていたとしたら「らしさからの解放」を選ぶでしょう。

平凡な日々に何となく不安を覚えていたら「非凡な人々」を、終わってしまった恋を引きずっている場合は「恋の余韻」が気になるに違いありません。

自分の状況とは重ならないにしても、まるでとんちのような、謎解きしてみたくなる魅力があります。

[3]一番人気「I AM TRASH(ゴミの花)」の香り

NOSE SHOPのスタッフさん曰く、「I AM TRASH(ゴミの花)」が一番人気が高いとのことでした。
私も全種類試した中でこれが一番気に入って購入したんですが、その決め手は香りだけでなく、説明文を読んで感激したからです。

「天上の雲間から降り注ぐ光。ゴミ山の頂上に屹立する一輪の花。その花は気高く神々しい。リユースでもリサイクルでもない、アップサイクルという手法で香料の残滓から生まれた革新的な香りは滅びゆく地球への一つの奉仕。」

ようは製造過程において発生する香料の残滓(ざんし)を生かして作った香水、ということです。
そこから生まれた香りは、まるでゴミ山の中に屹立する一輪の気高い花のようだ、と。

…なんて画期的なんでしょうか。
私は古着や使い古された家具、廃材などをリメイクして新しく生まれ変わる様が好きだというのもあり、捨てられる運命にあった香料の残滓から作られているというこの香水を購入せずにはいられませんでした。

そして画期的と言えば、この香水のCM(イメージビデオ?)も、「美の業界」の常識を覆すセンセーショナルなものですが、伝えたいことがとてもよく伝わり、この香水を知る上での重要な内容になっていると思います。

そして香りはと言うと、フルーツがふんだんに使われ“甘くて可愛らしい香り”に間違いはないんですが、この甘さの正体に掴み所がなく、強いて言うならピーチやクチナシが近いとは思うんですが、香調にはピーチもクチナシも含まれていません。
何かの葉っぱのような渋みもごく僅かに感じます。

アップサイクルという独特の手法によって作られているせいか、嗅いだ瞬間は単一的に感じるのに、嗅いでいるうちにどんどんその複雑さに気づき、難攻不落なこの香りの正体をどんどん突き詰めたくなります。

公開されている香調はトップノート、ミドルノート、ラストノートと分けられておらず、私の肌の上でも大きな香りの変化はないまま穏やかに消えていきました。

ノート:
ビターオレンジのアップサイクル、グリーンタンジェリンのアップサイクル、グアテマラ産レモングラス、アップルエッセンスのアップサイクル、ローズアブソリュートのアップサイクル、イソイースーパーのアップサイクル、サンダロア、シダーウッドアトラスのアップサイクル、アキガラウッド、ガリゲットストロベリー・・・

上記以外にもきっとたくさんの香料、原料、残滓が使われているに違いありません。

上品な大人の甘さなのでシックな服装に合わせても違和感はなく、どんなシチュエーションやファッションにも対応してくれる使いやすい香りだと思います。


 

[4]反骨精神あふれるユニークかつエレガントな香水を試してみたい方に


出典 noseshop.jp/?tid=5&mode=f15

ハイブランドからあまりメジャーではないメゾンまで、この世の中には数えきれないほどの香水がありますが、だからこそ自分の好きな香りやブランドに出会えるのはなかなか難しいことだと思います。

香調から香りを探し出すのももちろん正解ですが、自分が共感できるようなブランドの背景や歴史コンセプトなどを元に、そこから香りを検索してみるのも予期していなかった香りに出会うキッカケになると思います。

ETAT LIBRE D’ ORANGE(エタ リーブル ド オランジェ)はかつての「オレンジ自由国」が自由を求めて闘ったように、エチエンヌが既存の香水業界へ挑戦状を叩きつけ、脱却と独立、そして自由を求めて設立されたブランドです。

調香や原料、製作方法からネーミングに至るまで、既成概念にとらわれない自由な発想はこれからも私たち香水ファンを魅了してやまないことでしょう。

うっとりするようなCMや広告を展開するメジャーなブランド香水ももちろん魅力的で素晴らしいと思いますが、その世界の真裏にいる一人の調香師が起こした革命のフレグランス

共感された方も、なんだか少し気になってきた方も、ぜひチェックしてみてくださいね!

>>「NOSE SHOP」内『ETAT LIBRE D’ORANGE』

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